2022年10月14日、消費者庁は「日本アムウェイ」に対して6カ月間の取引停止命令を下しました。
アムウェイに所属する複数の会員が、SNSを通じて知り合った相手に対して行った
- 社名や目的を告げずに強引に勧誘する
- 契約時に義務付けられている書面を渡さない
といった行為が特定商取引法に違反するとみなされたことが原因です。
さて、たびたび話題になるこの「アムウェイ」ですが、取引停止命令の原因となった違法な勧誘手口をご紹介していきます。
目次
【5選】最近の勧誘手口から典型的なものまで
アムウェイは口コミで広げるビジネスとして、昔から今も変わらず会員の人たちが勧誘活動を行っています。
なぜ勧誘するのかというと自分のグループを作り商品の販売経路を拡大し、そのグループを育成することでインセンティブが得られる。
つまり裏を返せば会員を増やしていかなければ報酬を受けることができないシステムになっているからです。
とは言え、人ひとりの交友関係から勧誘するだけでは限界がありますよね。
そのため、ディストリビューターたちは様々な手法を駆使した勧誘に余念がありません。
ここから、5つの勧誘の手口とアムウェイ会員になるまでの経過をご紹介したいと思います。
マッチングアプリ
出会いを求める人たちが集うマッチングアプリは、近年アムウェイをはじめとするネットワークビジネスにおいて格好の勧誘の場となっています。
![アムウェイマッチングアプリ指示画像](https://funfunews.com/wp-content/uploads/2022/11/マッチングアプリ画像.jpg)
引用元:TBS NEWS DIG
ディストリビューターは、マッチングアプリで婚活や恋活をしようとしている一般の登録者を狙って、さも自分も恋愛相手を探している風を装ってアプローチをかけます。
連絡を取り合い、デートを重ねて親密になったところで、最終的にはアムウェイに勧誘するのです。
こうしたケースでは当然、当初相手に対してアムウェイへの勧誘する意図を隠して接触しますので、特定商取引法に違法することになります。
冒頭でふれたアムウェイに対する取引停止命令は、こうしたケースの多発が問題視されたことによるものだったのです。
イベントサークルや飲み会
フットサルやドッジビーなどスポーツ関連のサークル、社会人サークルと称して、一般の人たちを集め、そこで親しくなった人たちを勧誘する手口です。
ここでもあくまでアムウェイの名前と勧誘という目的を表に出さず、お花見会やBBQといった多くの人が参加ずるイベントを催します。
集まった参加者から目ぼしい人を見つけ出し、最終的に勧誘にもっていきます。
セミナーや講座
一見アムウェイとは関連がなさそうな起業セミナーや経済セミナーを開催し、そこに来場した一般客からターゲットを見つけだします。
こうしたケースの詳細については、次章で改めて詳しく解説します。
街中で声かけ
この人たちは初めて見ました。
新宿で活動してる人たちも入れ替わったのかしら。#新宿 #男女 #二人組 #2人組 #マルチ商法 #ネットワークビジネス pic.twitter.com/aRcomlgpeb— Candy (@shinjukuduos) March 24, 2022
かつてLINEやSNSが無かった頃は、男女でペアを組み、街中で手当たり次第に声をかけて、連絡先(携帯番号やメールアドレス)を教えてもらう方法が主流だったようです。
最近では、男女もしくは同性同士の二人組で、アムウェイの事を知らないような若者に「いい居酒屋知らない?」などと声をかけ、相手から反応があったら「今度一緒に飲みに行こう!」と連絡先(LINE等)を交換するという行為が多発しています。
業務停止の報道を受けて、SNSなどでも「同じに日に何度も居酒屋を紹介してほしい」という内容の声かけを受けた、という書き込みが話題になりました。
BARで声掛け
こちらも個人に対する勧誘の手口です。
BARなどで独り客に話しかけて、一見普通の会話を通じて仲良くなり「また飲みに行こう」などと連絡先を交換します。
その数日後、相手からホームパーティなどの誘いがあり、参加してみたらその場でアムウェイの鍋のデモンストレーションが始まった……というのが典型的パターンです。
このようにアムウェイの勧誘はあの手この手を使って行われているのです。
勧誘されたらその後どうなるのか?
では次に勧誘されたらどんなステップを踏み会員へと契約させられるのでしょうか。ここでは事例を元にアムウェイの勧誘方法を詳しく説明していきます。
アムウェイ関連のイベントに誘われる
Aさんは起業セミナーで同世代のBさんと知り合い、連絡先を交換しました。
その後、Bさんから「セミナー参加者達で飲み会があるので参加しませんか?」と連絡がありました。
Aさんはその日都合がつかなかったため参加を断ったのですが、Bさんから「じゃあ2人で別の日に飲みにいきましょう」という提案があり、断った引け目もあって翌月に改めて会う事になったのです。
最初のやりとりで、BさんはAさんの夢や目標について頻繁かつ詳細に聞いてきたそうです。
これはアムウェイ洗脳への前段階情報として必須で、ターゲットの夢や目標を叶えるにはアムウェイビジネスが最適である事に結びつける上で重要だからです。
その後数回Bさんと会う事になったAさんですが、全て飲み会ではなく、「お茶をする」程度の接触でした。
しかしながらBさんの交友関係は広く、企業したいAさんの問題を解決する「凄い人」を紹介できるなど、AさんにとってBさんは「刺激的で楽しい時間を共有できる人」として認識されるようになったのです。
そして、会う回数を重ねるごとにAさんとBさんの関係は親密になっていきました。
この手口は、心理学でいうところの「ザイアンス効果」に基づいたものです。
はじめは興味がなかった人や物事でも、繰り返し接触し続けることで、刺激の反復によって好感度や印象が高まるという心理的現象のことで、TVCMなどマーケティングでもよく活用されています。
ある日Bさんからその「凄い人」が行う経済セミナーがあるから参加しないかと連絡がありました。
もともと起業したいと思っていたAさんは二つ返事で参加することにしました。
セミナーは50人程の参加者がいて、最初から「凄い人」がいかにすごいかを登場前から司会者が煽るちょっと違和感のあるセミナーだったようです。
その後「凄い人」が現れて、セミナーは50人程の参加者がいましたが、本人が登場もしないうちから司会者が「凄い人」がいかにすごいかを煽るような、ちょっと違和感のあるセミナーだったようです。
その後「凄い人」が現れて、現在の日本経済の危うさ、老後の生活資金の問題、そして副業のすすめといった流れでスピーチが進められました。
そしてアムウェイの名前を一切出すことなく、セミナーは終了しました。
このセミナーの狙いは、現在Aさんをはじめとする参加者たちが抱えているであろう問題を提起し、不安を煽り、その問題を解決するには副業しかないという結論へ誘導することにあります。(※)。
こうした仕込みを行っておけば、いざアムウェイの名前を出して勧誘をする際には、対象となる相手は抵抗感を持つこともなく、将来のための副業を自ら選択した、という形でこれを受け入れてしまうのです。
後に、このセミナーの参加者のうち実は90%がアムウェイの会員で、残り10%がAさんのような見込み客(ターゲット)であったことが判明し、Aさんはすんでのところでアムウェイの勧誘から逃れることができました。
当然Bさんはアムウェイのディストリビューターで、「凄い人」はアムウェイのグループリーダーにあたる人物だったのです。
このように、アムウェイの名を語らず、ターゲットを徐々に洗脳していく手の込んだやり方で勧誘を進めていくのです。
※これもマーケティングの手法で、PASONAの法則と呼ばれるもので、problem(問題)agitation(扇動)solution(解決策)narrow down(絞込)action(行動)の頭文字で、購買を促すためのメッセージの法則性を表したものです。
「こんな問題があり、このままでは危険。でもこうすれば大丈夫。その解決法を今ならあなただけに教えます。」という意味を持ちます。
よくDMのセールスレターや、WEB広告のランディングページ等で活用されています。
師匠を紹介される(通称ABC)
セミナーへの勧誘のほかにも、直接グループリーダーとの対面によって勧誘されるパターンもあります。
前述したケースと同じように、勧誘者は最初からアムウエィの勧誘だとはおくびにも出さずターゲットをイベントや飲み会に誘いだします。
お互いの共通の話題を話しながら、相手との距離を縮めていき、常に共感をもって話しを進めていくのがその手口です。
聞き役に徹し、悩みを引き出す。この悩みを聞くことが最も重要になっていきます。
ある程度親しくなると、次は常套句である「凄い人がいるから会わせたい」という話にもっていきます。
この「凄い人」をターゲットに会わせるやり方はネットワークビジネス用語で通称ABC勧誘とよばれる手法です。
![ABCの構図](https://funfunews.com/wp-content/uploads/2022/11/ABCの構図.png)
引用元:ネットワークビジネスLab
この「A・B・C」とは以下の頭文字から来ています。
- A=Adviser 実際に説明や勧誘を行う上司(アムウェイで言うところのアップ「凄い人」)
- B=Bridge 勧誘を行うアップにターゲットを繋げる(橋渡し的)役割を担う
- C=Customer 見込み客 勧誘するターゲット
まだ勧誘に慣れていない新人ディストリビューターであるBのためにA(アップ)が間に入って勧誘を行い、この一連の勧誘行為をBに見せることで、Bに勧誘方法を伝授する教育の意味も兼ね備えています。
ABC勧誘はカフェやファミレス、ホテルのラウンジ等で実行に移されますが、それまでに事前準備としてBはターゲットであるCに、Aがいかに凄い人物であるかをしっかり「前振り」しておきます。
こうしておくことでAの権威性を高め、Cがより真剣に話を聞いてくれるように仕向けるのです。
このようにAの権威性を高める行為をティーアップ(T-up)と呼びます。
T-upはABC勧誘の最中にも常に行われ、BはAの話を盛り立て、キラキラした目で頷くなど、Aの話術とその場の雰囲気をサポートしていきます。
当然、BとAは事前に、悩んでいるCにとって、一番響くような「答え」を与えられるように、入念な打ち合わせを行った上で勧誘の場に臨みます。
目的はアムウェイの会員となった先にある、理想の未来(成功者のライフスタイル)をCに描いてもらうためです。
ここで、ようやくアムウェイの名前がでてくるのです。
ある程度信頼関係ができている場合「アムウェイ?マルチ商法の?」と思っていたとしても断りにくい状況ですよね。
そこがアムウェイの狙いなのです。
アムウェイの説明会に誘われる
セミナーやABC勧誘で順序よくお膳立てをして、理想の未来を提示し、ターゲットがアムウェイに興味をもっているようであれば、ここで「アムウェイの話をきちんと聞いてみませんか?」とサインアップする段階までもっていきます。
ABC勧誘で次回のアポをとるときなどにさりげなくターゲットに後押しをするのです。
まず、アムウェイのミーティングに誘われます。
そこにはキラキラした女子やイケメンで溢れていて、誰それのFacebookでは、ハワイを満喫していたや今度地中海クルーズに行く等、景気の良い話で持ち切り。
ターゲットは雰囲気に圧倒され、キラキラオーラにどんどん惑わされていきます。
次に体質改善や健康セミナーといったミーティングに参加させるように仕向けます。
このミーティングに誘うのはターゲットがどのアムウェイ商品に興味を持つかを知るための事前調査のようなものです。
ここでアムウェイの三種の神器である、空気清浄機、鍋、浄水器や最近人気のサプリメントやエナジードンリクなどを提示して、ターゲットがどの商品に興味のあるのかを選別していきます。
ターゲットの興味ある商品がわかると、今度はその商品の「買い方を教えてあげる」と本丸であるアムウェイ本社(またはアムウェイプラザ)へ誘い出します。
ここでは決して「会員登録しよう」「メンバーになろう」とは口にしません。ターゲットが拒絶反応しないように慎重に着実に行われます。
アムウェイ本社のオープンカフェでアムウェイ商品の買い方の説明を受ける際、周囲では以前のミーティングで引き合わされたキラキラした人たちが、別のターゲットに商品の説明をしたり、デモンストレーションの練習をしたりしています。
高い理想に向かってキラキラした人たちが活動している、という、圧倒的な「意識高い系」の雰囲気の中にターゲットを放り込むのです。
開放的なカフェでめでたく(?)サインアップが成立すれば新規メンバーとしてカフェにいる人たちに紹介されます。
このカフェにいる人たちはターゲットが所属するグループのメンバーで、新規メンバーがサインアップする際には、場を盛り上げウェルカムモード全開で迎えいれるために仕込まれているのです。
以上ご紹介したのはアムウェイビジネスオーナーグループの勧誘からメンバー登録までの一例です。
そもそもアムウェイとは?
アムウェイは1959年にアメリカで創業された、家庭用日用品を販売する企業です。
経営理念は「成功を望むすべての人々に機会を提供する」ことで、一般的な企業とは異なる「ダイレクト・セリング」という販売手法を採用しているのが大きな特徴です。
ダイレクト・セリングとMLM
この「ダイレクト・セリング」とは、小売りの店舗や代理店を通さず、製品の使用者自身が口コミによって商品を広め、消費者に直接商品を販売する方法です。
この方法は、一般的な商品販売のルートにおいて発生する中間マージンをなくし、その代わりに口コミで直接商品を販売してくれた製品使用者に報酬を還元する仕組みです。
![アムウェイの仕組み](https://funfunews.com/wp-content/uploads/2022/11/sp_bus_pay_profitアムウェイ.jpg)
引用元:日本Amway
一般的な商品の販売ルートでは、製造業社は問屋を通じてスーパーやドラッグストアといった小売店に商品を卸し、消費者はこの小売店で商品を購入します。
その消費者の購入のきっかけとなるのは、大抵がTVCMや町中のポスターといった広告です。
しかしアムウェイでは、消費者が既に製品を使用している人から商品を直接購入することができる仕組みになっています。
アムウェイは製造業社でありながら小売業者でもあるのです。そして、販売促進は広告ではなく、製品使用者(※以下「ディストリビューター」)の口コミを通じて行われます。
ディストリビューターは、商品を販売するだけでなく、アムウェイの商品の流通経路を広げていく役割も担っているのです。
この「ダイレクト・セリング」の手法を採ることで、アムウェイは一般的な製造業社とは違って中間マージンや広告費を必要としません。
そしてその分の経費は販売促進に従事してくれたディストリビューターの報酬に充てられている、というわけなのです。
こうした手法はネットワークビジネス(MLMマルチレベルマーケティング連鎖販売取引)と呼ばれ、日本では一般的にマルチ商法と呼ばれています。
会員(ディストリビューター)が勧誘した子会員がさらに孫会員を増やしグループをつくり、連鎖的な流通拡大の仕組みを構築していきます。
グループ内の流通量に応じて、配当ボーナスが支払われるというビジネスモデルです。
アムウェイの仕組み
![アムウェイの仕組み2](https://funfunews.com/wp-content/uploads/2022/11/sp_bus_pay_structure3アムウェイの仕組み.jpg)
引用元:日本Amway
ディストリビューターになると、商品を30%offで購入することができるようになります。
さらにその商品を通常価格で販売する権利が得られるため、ディストリビューターが商品をほかの人に売ると、その差額は本人の収入となるのです。
さらに、商品を販売するごとに、ディストリビューターには製品ごとに設定された「ポイントバリュー(PV)」と呼ばれるポイントが付与されます。
さらに一定の条件を達成すると追加ボーナスが加算されていきます。
このボーナスの種類は全部で19種類あり、条件を満たす限りすべて重複して支給される仕組みです。
また、グループ内の子会員は、自分の売り上げを一定のレベル以上まで伸ばすことができれば、独立して新たなグループのトップとなることができます。
このとき、自分のグループから新たな独立グループを輩出したディストリビューター自身も新たな報酬タイトルを獲得します。
この報酬プランはブレイクアウェイと呼ばれ、独立していったグループが多いほど報酬は上乗せされていきます。
つまり、グループを成長させて、新しいグループを枝分かれさせていけばいくほど多額の報酬を安定して得られることになります。
アムウェイが権利収入とよく言われる所以はここにあるのです。
しかしながら、一度条件を達成したら継続的に報酬が支払われるというわけではありません。
毎月、毎年、アムウェイが提示する条件をクリアしていないとこのボーナスは支払われなくなります。
だからこそ、自らの権利を維持するために、ディストリビューターはアムウェイ製品の素晴らしさを伝え続け、勧誘し、勧誘した人を育て続け、常にグループを成長させていかなければならない宿命にあるのです。
まとめ
以上のことから、アムウェイがどういった企業で、どのようなビジネスモデルを用いて運営しているかがおわかりいただけたか思います。
そして、その勧誘の手法は様々なマーケティングの手法、心理学、行動経済学の知見を利用して、周到に用意されたものであるかについても知っていただけたと思います。
アムウェイでは勧誘を続けてしてメンバー(会員)を増やさなければ、収入に繋がりません。
だから様々な手口を使い、違法な行為をしてまでもアムウェイが示す期限までに会員数を増やさなければ、また最初からはじめなければならないからです。
かつて江戸時代に近江商人が信条として掲げていた「三方よし」という言葉があります。
これは事業活動において「売り手良し(自分)」「買い手よし(取引相手)」「世間良し(社会)」の三方を満足させるように行わなければならないという意味を持ちます。
現代のビジネスでも、WIN-WIN」(売り手も買い手も両者が利益を得ることのできる)の関係が理想とされています。
この「WIN-WIN」の関係を築こうせず、自社だけが独り勝ちし利益を奪い取るような取引を繰り返せば、一時的には利益率が上がってもリピーターが増えなくなるため、だんだんと利益は先細っていってしまいます。
だからこそ多くの一般的な企業にとって、顧客と「WIN-WIN」の関係を築くことは経営上の重要な課題となります。
近江商人の場合はさらに、そこに「世間良し」をもってこそビジネスの果たす責任があると説いています。
「世間よし」とは取引をしている両者だけでなく、社会も豊かになるビジネスをしましょうということです。
自分と相手が得をしても、そのしわ寄せを社会の別の部分に押し付けるようなビジネスは、短期的に利益をだすことはできても、長期的には破綻してしまいます。
アムウェイのシステムは、理屈の上では「三方良し」を実践できているようにとれますが、実際は少なくない会員が違法な行為を繰り返し、自分たちの利益だけを考え、世間に悪影響を及ぼしました。
今回の取引停止命令をきっかけに、アムウェイ及びディストリビューターの皆さんが認識を改め、買い手である消費者に寄り添い、社会にも貢献できるような企業活動を目指していけるようになればと切に願います。